一部は非の打ち所がない程完璧だったにも関わらず二部移行失速し投げっぱなしエンドで終わってしまった岡本倫先生のSFファンタジー漫画、極黒のブリュンヒルデ。
連載終了から大分経ってしまったけれど極黒のブリュンヒルデは何故二部移行駄目になってしまったのか?を考えたい。
ネタバレ注意。
本作のキーパーソンである小鳥の死
私は極黒のブリュンヒルデが失速してしまった大きな理由の一つは「小鳥の死」が原因だったと思う。
小鳥はアホの子で魔法も作中トップクラスに使えない魔法だったけど、重要度だけで言えばメインヒロインの寧子よりも上の本作のキーパーソンに当たる。
元々ストーリーの始まりであるBクラスの魔法使いの脱走も、小鳥を殺すためにヘクセンヤクトが護送車を襲撃したためだ。
もし小鳥がいなければ主人公の村上は間違いなく岩に押しつぶされて死んでいた。
ヴィンガルフも奈波や代わりのいないAAAのスカジを犠牲にしてまで血眼になって小鳥を捕まえてようとすることもなかった。
小鳥が偶然で天文台部に入ってなければストーリーが大きく違っていた。
以上のことから考えて小鳥が登場してすらいない1巻からこの漫画のストーリーは小鳥を軸に動いていた。
小鳥を確保するためにキカコ、奈波、スカジ、九&ヴァルキュリアと次々と強敵が襲ってきてそれを村上の頭脳とBクラスの魔法使いと乗り越え鎮死剤を手に入れる、というのが一部の基本的な流れだった。
よって小鳥の死んだ二部ではヴィンガルフは脱走者魔法使いの確保は放置していた。
小鳥の死んだ二部では今まで一部のような「小鳥を軸としたヴィンガルフとの戦い」とは違ってストーリーが進んでいった。
ここが一部と二部の大きな違い。
でも小鳥の死だけではここまでつまらなくなる理由にはならなかったと思う。
ストーリーの遅さ
じゃあ何が極黒のブリュンヒルデをつまらなくしてしまったのかというと個人的にはストーリーの遅さも大きな原因だと思う。
私が極黒のブリュンヒルデに求めていたものは「面白いSF漫画」。
どんなにヒロインが可愛かろうがラブコメは求めていなかった。
二部ではこれ必要か?と思うような日常回ばかり続いたのもマイナス点で、日常回を描きたいのならば1話で十分。
読者の反応からしてもストーリーを動かすべきだった。
回復要員初菜の強能力っぷり
極黒劣化の第三の原因は回復要員初菜のあまりの強能力っぷり。
死んでしまった人間ですら5分以内ならリスク無しで生き返らせるというのは緊張感の大きな妨げになった。
初菜が他人も治せるという情報が出る前から私の中には常に「どうせ初菜に治してもらうんだろ…」という安堵感ではなく失望があった。
回復要因自体はあっても悪くないとは思うけどかなり弱くする必要があったはず。
ヴィンガルフ神祇官の村上父
そして本作のラスボスの一人である丸眼鏡こと村上父。
この人の全人類を滅ぼして息子を神を頼らない新人類にしたいという願望が納得できない。
息子を神を頼らない新人類にしたいまでは十分分かる。それが子供への愛情故なのも。
でもそこで現人類を滅ぼす必要性が全く感じられない。
九の全人類を滅ぼしてでも妹を蘇らせて二度と死なない体にしたかった、という動機はここまでのことをするにはあまりにも愚か、だけど人間として否定出来ない。
村上父にはそういった理由づけが弱いと思ってしまう。
結局丸眼鏡はマキナに能力不相応の力を与えた結果自業自得とはいえ死なせ、村上のことも不幸にしてしまった。
本当に愛情があるのならそんな馬鹿げたことしない方が良かったわけで、九とは違って二人の息子両方生きているのになんでこうなっちゃうかなぁ…と思ってしまった。
単行本版では土屋の枕によって情報を知られ巫女を銃殺され計画が潰されたというのもイメージが悪い。
九の妹怜奈への愛情は非常に強く感じるにも関わらず丸眼鏡には息子二人への愛情がなんとなく感じられない。
神を滅ぼす = 人類を滅ぼす必要性が全く感じられなかったこともあってストーリーを動かすためだけに息子を愛している設定にした、という印象を受けた。
ヴィンガルフのトップが主人公の父親だったという設定は面白いからもう少し上手く動かせれば大分印象が違っていたのかもしれないが。
明日公開予定の2に続く。